あなたの「困った」を「相談してよかった」に変える行政書士・相続コンサルタントのなかしま美春です。
全33回のコラム、第5回をお届けします。
この連続コラムでは、「相続でトラブルになりやすいこと」、そして「今できること」について、わかりやすくお伝えしていきます。
このコラムが、相続について考える小さなきっかけとなり、
そして「家族で話す」「書き残す」という第一歩につながることを願って――
ぜひ最後までお付き合いください。
(全33回の一覧は>>こちら)
第5回:親の面倒を「見ている子ども」と「見ていない子ども」がいる!?

(写真はイメージです)
「10年間、母の介護をしてきたのは私だけ。なのに弟と同じ取り分なんて納得できません」
「兄弟から“実家に無償で住んでいたから、介護の労力は相殺された”と言われた」
「実家の近くに住んでいるから介護は自然と私が担当。まさか兄弟に感謝されていなかったなんて」
このような声は、相続の現場では珍しくありません。
背景にあるのは、「見えにくい貢献度」と「平等への考え方のズレ」です。
今回は介護の貢献度が原因で起こりやすい相続トラブルと、その予防策を解説します。
介護貢献度の違いが“争族”を招くワケ
相続が発生すると、相続人同士で「誰が、どの財産を、どれだけ受け取るか」を話し合います。これを「遺産分割協議」と言います。
この協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要です。
そのため、もし介護に貢献した子どもは「自分は多くもらって当然」と主張し、他の子どもは「法律通り均等に分けるべき」と主張すれば、相続手続きはストップしてしまうのです。
民法には、財産の維持や増加に貢献した人が多めに相続できる「寄与分」(※)という制度(民法904条の2)があるのですが、実際には争いになることも少なくありません。
※寄与分とは・・・
ある相続人が、亡くなった方の財産減少の防止や財産増加に特別な貢献をした場合、その相続人が他の相続人と同じ相続分では不公平が生じる。そのため、特別な貢献をした相続人の法定相続分に、財産減少防止できた額、あるいは、財産の増額分を、上乗せして取得できるようにした仕組みのこと。寄与分の金額は、相続人同士での話し合いで決めるのが原則だが、折り合いがつかないときは調停を行い、調停でも決まらない場合は家庭裁判所の審判により決定される。
つまり、相続人同士の話し合いで合意できなければ──
❶ 家庭裁判所に「遺産分割調停」の申立て
調停では、中立的な裁判所の調停委員が間に入り、相続人それぞれの主張を聞きながら合意を目指します。この調停はあくまで話し合いによる解決を目指すもので、相続人全員の合意を得られる形での解決方法を摸索します。調停は通常1ヶ月に1回程度開催します。
ここでもまとまらなければ──
❷ 「遺産分割審判」の手続きに移行
調停が不成立となった場合は自動的に「遺産分割審判」へ移行します。審判では、裁判官が、提出された証拠や主張をもとに、最終的な遺産分割方法を決定します。
❸審判の結果に不服がある場合
審判の結果に不服がある場合は、2週間以内に高等裁判所へ「即時抗告」が可能です。「即時抗告」とは、審判の内容に不服がある旨を申し立てて、高等裁判所に審理してもらうことです。
このように相続が起きた後、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で話し合いがまとまらない場合は、裁判所の調停・審判手続きを通じて決着を図ることになります。
ただし、ここで注意しておきたいのが、この家庭裁判所の手続きには「時間」も「手間」も「お金」もかかるということ。
解決までに何年もかかるケースもあり、経済的にも精神的にも大きな負担となり、相続人同士の仲がさらにこじれてしまうことも非常に多いんです。
対策方法は?
こうしたトラブルが懸念される場合におすすめしているのは、主に3つの対策です。
※個別の案件については、専門家へのご相談をおすすめします。
❶法的対策(介護されている親御さんが行う)
- 「公正証書遺言」を作成する
- 民法 第906条についても理解し活用する
(民法 第906条)遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
❷相続以外の方法で財産を渡す(介護されている親御さんが行う)
- 生命保険や生前贈与を検討する
❸介護の「見える化」(介護している方が行う)
- 介護日記やメモ、領収書、要介護認定書類、介護保険サービスの利用状況、医師の診断書などは「どれくらいの期間、どんな内容で、どの程度無償で介護したか」を示す証拠を残す。
➔裁判所や他の相続人に寄与分を認めてもらうためには、「無償性」「継続性」「特別な貢献」が客観的に分かる記録や資料が重要なため
想いのこもった遺言書が「争族」を防ぐ
公正証書遺言に、自分の想いを込めた「付言事項(ふげんじこう)」を添えると、さらに効果的です。
付言事項とは、法的な効力はないものの、遺言者の「想い」や「背景」を自由に伝えられる文章(手紙)部分のことです。
■付言事項の例
「長男には自宅を相続させます。長年、私の介護をしてくれたことに感謝しています」
「次男には現金を相続させますが、決して不公平な意図ではありません。」
「みんな仲良く過ごしてくれることを願っています」
など、「なぜ、遺言内容をそのようにしたのか」や家族へのメッセージを添えることができます。
私自身、こうしたメッセージが相続人の心をやわらげ、兄弟姉妹の関係をやわらげてくれるケースを見てきました。
「困らない相続」がいちばん!
いかがでしたか?
「きょうだいの仲がいいから大丈夫」と思っていても、実は親御さんが亡くなった後に初めてきょうだいへの不満が噴き出すことも少なくありません。
だからこそ、相続の専門家と一緒に、“想いのこもった遺言書”を作っておくことが、ご家族への最高のプレゼントになります。
「介護をしてくれたあの子に多めに財産を残したい」
「自分が亡くなった後こそ、子ども達には仲良く暮らしてほしい」
そんなときは、ぜひ早めに専門家にご相談ください。
✨遺言書は、権利を感謝に変える魔法です✨
✨感謝で迎える「相続」は「争族」になりにくい✨
「あれ?私の場合はどうなんだろ?」と気になった方へ
このコラムの執筆にあたり、一般社団法人 相続診断協会の「相続診断チェックシート」のチェック項目の一部を参考にさせていただきました。
「相続診断チェックシート」を使えば、ご自身の状況を診断することができます。
30個あるチェック項目に答えるだけで、ご自身の現状がわかり、「このまま何もしないと、何が問題になるのか」をあぶり出すことができます。
ご興味のある方は、「「相続診断チェックシート」診断希望」と、お気軽に当事務所までご相談ください(^^)